株式会社FABRIC TOKYO様 × 株式会社Old Kan様
今回の撮影に協力して下さったのは
場所:FABRIC TOKYO 渋谷MODI店
住所:東京都渋谷区神南1丁目21−3 渋谷モディ4階
電話番号:03-4336-8206
今回お話を伺った方のご紹介
-
株式会社FABRIC TOKYO 店舗開発マネージャー 向井純一さん
店舗の出店立地の選定やストアデザインのプランニングを担当しています。私たちが大事にしているフィロソフィーをストアデザインで表現し、ブランド体験がより豊かになる店舗づくりに取り組んでいます。 -
Old Kan Inc. 株式会社 オールドカン代表 浦田晶平さん
商業空間を中心に、ホテルやブライダル施設、レジデンス案件等さまざまなプロジェクトを担当。 あるジャンルに特化せず、さまざまなジャンルに精通する設計事務所を目指しています。
㈱FABRIC TOKYO様の企業概要
㈱FABRIC TOKYOは、「LIFESTYLE DESIGN for ALL」をミッションに掲げ、カスタムウェアの民主化を通じて人生や世界を楽しくすることを目指し、オーダービジネスウェアブランド「FABRIC TOKYO」を国内主要都市に10店舗展開しています。ブランドコンセプトを「Fit Your Life.」としており、ひとりひとりの体型に合うだけでなく価値観にも合うビジネスウェアをオーダーメイドで提供しています。
ブランドサイト:https://fabric-tokyo.com/
㈱Old Kan様の企業概要
Old Kanの社名由来は「懐かしい感覚」「古き良き」という意味合いからきています。これから空間創造するうえで、新しいデザインばかりを追い求めるのではなく、「どこか懐かしい感覚」「古き良き」のような設えも大切にし、歴史に学びながら設計していきたいと考えています。そして、クライアント様、その空間を使うお客様に幸せを提供できるようなデザインを心がけて日々精進しています。
■会社名:Old Kan Inc. / 株式会社 オールドカン
■設立日:2020.04.01
■代表:浦田晶平
■所在地:〒107-0062 東京都港区南青山4-1-3 セントラル青山601
■email:shohei_urata@old-kan.jp
■URL: https://old-kan.jp
■公式Instagram: https://www.instagram.com/old_kan_/
■事業内容:内装空間のデザイン・設計、インテリアデザイン コンサルティング、FFEデザイン・開発
現在の㈱FABRIC TOKYO様のSDGsやサステナブルなお取組みはいかがでしょうか?
(向井さん)
サービスを作っていく上でFABRIC TOKYOが大切にしている「HI-3」と呼ぶ3つのフィロソフィーのひとつに、「HI-SUSTAINABILITY」があります。
ファッションの短サイクル化や低価格化などが進む中、アパレル産業の環境負荷は世界第二位と言われており、業界全体で取り組まなければいけない課題は多岐にわたります。そのような状況下で、受注した分だけ作るオーダーメイドという服の買い方を当たり前にすることは、大量生産に歯止めをかけることができる一つの手段だと考えています。
また、オーダーメイドの当たり前化を推進することと並行して、クリエイティブな発想で今の私たちにできることからサステナビリティの実現に取り組んでおります。このチャレンジを「サステナブルアップデート」と呼び、実現する度に社内外へ発信しています。
これ以外にも、様々な理由で商品化されず生地工場や問屋で眠っていた生地をキュレーションし、生地の価値や生産背景を私たちが発信しながら、商品として販売する「WHITE FRIDAY」というイベントを年に一度実施しており、消費社会の裏にある廃棄問題に目を向けるきっかけになればと考えています。
さらに、当社のサービスはメンズのオーダースーツからスタートしましたが、メンズパターンスーツを性別問わず提供する取り組みも進めています。女性のお客様から「友人の結婚式に、ドレスではなくメンズスーツを着たい」という要望がきっかけで、潜在的にこのような要望は他にもあるはずだと考えスタートしました。4年前に期間限定イベントを開催したところ反響が大きく、その2年後には常設店舗を構えるまでになりました。ジェンダー問題に対しても日々学んでいる最中です。
(浦田さん)
Old Kanとして様々なプロジェクトに携わらせていただく中で、常に新たな素材の可能性には注目しており、時にはマテリアル開発から携わらせて頂く案件もあります。時代的にも自然にサステナブルは意識しており、再生建材で什器や照明器具を造るなど、仕上げ材選定時は意匠性が最優先ながらもサステナブルな視点でも自然と採用検討をしていることが多いように感じております。
改装時のデザインコンセプトなど
(向井さん)
渋谷MODI店は性別を問わない“オールジェンダーストア”としてリニューアル計画を進めていく過程で、ジェンダーに限らず将来的にはすべての人を受け入れられる“インクルーシブストア”へ昇華する方針になりました。設備面でも通常店舗では行動が制限される車椅子の方や、何らかの障がいを抱える方でも使い勝手が良い機能とバリアフリーなデザインを採用しています。
意匠面でもすべての個性を尊重して受け入れ、どなたでも入りやすく快適に過ごせる空間演出を目指しました。マテリアルやカラースキームも一新し、見る角度によって色が変化するような均質でない個性的な素材も積極的に採用することで多様性と包摂性を表現しています。
(浦田さん)
FABRIC TOKYO様による新たなコンセプトショップである渋谷MODI店。” Inclusive ”を掲げており、性別に囚われず、一般的な方も障害を抱えている方も誰もがありのままである事を肯定し、それぞれが着たいものを提供する、誰も排除することのない包括的な店舗の在り方を実現すべく設計をスタートしました。
誰もがありのままで良い、排除することのない、というインクルーシブなあり方に着目し、内装デザインとしても「インクルーシブ、包括的、ありのまま」という事柄から着想を得た設計内容となっております。
NUNOUS®をなぜご採用頂けたのか?どこに魅力を感じられましたか?
(向井さん)
ひとことで言うと、「FABRIC TOKYOのフィロソフィーと同じ価値観を感じられたから」です。特に廃棄衣類を原料として再生されている背景があり、私たちの業界が抱えている課題を解決する方法を実現していることに共感しました。さらに生成される素材の表情が変化に富んでおり、均質よりも個性を尊重するストアコンセプトにピッタリだと感じました。木材もひとつひとつの表情が異なり経年変化を楽しめる素材ですが、NUNOUS®にはそれとはまた違った個性があり、建材になるまでのプロセスに物語があることにロマンを感じます。
(浦田さん)
NUNOUS®は廃棄された布の色や質感が損なわれておらず、大理石のような不思議な表情を持っています。インクルーシブというコンセプトの元、廃棄布までも排除せず再生していく姿勢を発信できればという思いの元素材選定させて頂きました。サステナブル建材であり、かつ意匠性を確立している数少ない建材だと感じており、その意匠性に魅力を感じておりました。その表情が空間や商品の良さをさらに引き立ててくれています。
導入後のご感想は?
(浦田さん)
什器の仕上げ材として採用させていただいたのですが、NUNOUS®それ自体が決して主張するわけではないのですが、近づいて見ると石のような木のような、廃棄布からの再生建材とは思えないようなデザイン性を持った什器となりました。人それぞれの見方によって石であり、木であり、モアレのような現象であり、といった奥深さを体現しているNUNOUS®の可能性をさらに感じました。
そして、NUNOUS®の什器仕上げ材採用によって、お客様から「この素材はなんだろう?」といった一言を発端に「廃棄布までも排除しないインクルーシブという視点で店舗全体を設計しています」といった店舗開発ストーリーの会話につながるような場面があれば設計者として嬉しく思います。
(向井さん)
個性的でありながら主張しすぎず、良い意味で周辺のマテリアルと馴染んでくれたなと感じました。それでいて単体で見ると印象に残る存在感があります。遠目には木材の様でもあり石の様にも見えますが、手で触れると凹凸のある繊維質を感じられるため、NUNOUS®で造られた什器に初めて触れる方は素材の原料を知るときっと驚かれると思います。
今後向かうべきSDGsやサステナブルの展望、力を入れていくお取組みについてはいかがですか?
(浦田さん)
設計事務所としての目線になりますが、今後サステナブル建材の可能性はさらに広がっていくと感じており、デザインリソースが必要な際に積極的にメイン意匠としてサステナブル建材の採用検討をする機会も増えてくるのではないかと思っております。そのようなデザインとしてのサステナブル素材探求にこれまで以上に力を入れていきたいと思っております。その先に既視感の無いデザインが生まれるものだと思っています。
(向井さん)
昨年ですが、約1年の準備期間を経てB Corp認証を申請しました。これまでもアパレルの大量生産、大量廃棄の課題やジェンダー問題に対する取り組みの他に、梱包資材のプラスチック削減や、廃棄される服の循環を目指した「衣類の回収プログラム」、産地への利益還元に基づいた兵庫県西脇市のテキスタイルメーカーとの共同開発など、数々のチャレンジを「サステナブルアップデート」として行ってきましたが、B Corpの視点を組み込むことで環境問題をはじめとするファッション産業の課題解決へのさらなる貢献を目指しています。
オーダーメイドのカスタムウェアを楽しんでもらう体験の中で、店舗什器の不思議な見た目や質感に触れたきっかけからでも廃棄問題や環境問題などに目を向ける人々は増えると思います。私たちのような小さな存在でもサステナブルな社会へ前進していく一助になれるよう、これからもチャレンジを続けてまいります。
編集後記
ファストファッションが広く浸透してきた昨今、「Fit Your Life.」をコンセプトに、価値観の多様性を尊重し、それぞれの生きかたに合わせてオーダーメイド商品を提供して繊維産業の常識を覆すビジネスモデルで2014年から成長を続ける“FABRIC TOKYO”さん。現在はDtoCだけでなく、Raas(Retail as a service)にも注力し、従来の商品の販売をゴールとするビジネスモデルから、デジタルの力で販売した後の商品を利用する体験をサービス化にも取り組まれ、業界でも注目の企業。「未活用の布への取組み」も積極的に取り組まれているFABRIC TOKYO向井マネージャーいわく、「NUNOUS®のフィロソフィーに共感した」ことで店舗什器にご採用頂きました。
そして、NUNOUS®をこちらのブランドを繋いでくれたのは、設計・デザイン業界で国内外から注目されているデザイン事務所、Old Kanの浦田晶平代表。「自分から探さないとデザイン性も兼ね備えたサステナブル素材は見つからない」という言葉が印象的。リサーチ活動にも余念がなく、素材のこともクライアント様のことも、全てのストーリーを紐解いてから最適解を提示される、丁寧で緻密な仕事をされるデザイナーさんである印象を持ちました。
そんなお2人の想いを体現された店舗を取材させて頂き、感じたのは「懐の深さ・心配り」でした。
フロアと店舗の敷居を無くし、どなたでも入りやすいよう広くとられた入口。車椅子でご来店される方の事も考え、店内の通路を広くしたり、手に取って頂き易いようディスプレイ棚の高さを最適な高さで設計。目に飛び込んで来たのは、玉虫色に輝く大きく美しい壁面。クロメートメッキ鋼板を採用し見る角度によって色がブルーやピンク、グリーンなど、何色とも言えない絶妙な色合いで、性別や意識の垣根を越えて受け入れる姿勢を感じました。ストアコンセプト・素材選定で細部にまでこだわりながらも、お客様の顔を思い浮かべて細やかな心配りを設計に落とし込む。全体ではスタイリッシュに調和が取れ、快適で居心地の良いが共存した奥行きのある空間。スーツを普段着ない私も、思わずお店の温かい雰囲気に吸い寄せられ覗いてみたくなる設計。
2年前に導入頂いたNUNOUS®で仕上げられた店舗ディスプレイ(テーブル什器、ハンガーラックのベース)が、当たり前のように空間を彩る様子を拝見し、これからも末永く素敵なブランドの世界観を引き立ててくれると確信しました。
個性を尊重し、その個性を全て受け入れてくれるFABRIC TOKYO 渋谷MODI店。プライベートで、スーツを新調する時に再訪しようと思いました。